口の機能と健康長寿
最近、健康長寿という言葉をよく耳にするようになりました。超高齢社会となった今、要介護状態とならず、健康的な社会生活を送る期間を延ばそうというのが健康地長寿の考えです。この健康長寿に口の機能が大きく関係していることが、いくつかの大規模疫学調査から明らかになってきています。
東京大などが実施した「柏スタディー」という研究では、歯の喪失や舌の機能低下、咀嚼機能の低下などにより、噛み応えのある食べ物が噛めなくなると、徐々に食指内容の偏りが目立つようになりました。そして栄養不足となってきんにくの衰えや体力低下につながり、店頭や歩行困難を起こしやすくなることが証明され、口の機能が低下すると「要介護の危険度」が約2.4倍、「死亡の危険度」が約2.2倍になることが示されました。
また、高齢者約2300人を対象に大阪大など多施設の施設の心理学、内科学、歯科学の専門家が共同で行っている研究では、咬合力(噛む力)が低下すると、緑黄色野菜、魚介類の摂取が少なくなり、その結果 、生活習慣予防に効果のある抗酸化ビタミン、食物繊維、不飽和脂肪酸(EPA、DHA)などの摂取量が減少することが示されました。さらに咬合力の低下は下枝運動機能の低下(歩行速度の低下)や軽度認知機能の低下とも関連があることが統計学的に明らかになりました。
口の機能を維持向上させるためには、むし歯や歯周病などで歯を失わないように、お口のケアを継続すること、また残念ながら歯を失った場合には、入れ歯やブリッジなど適切な治療を受け機能を回復させることが必要です。健康長寿のために、かかりつけ歯科医院を持ち、定期的にお口の状態をチェックしてもらい、治療やアドバイスを受けてください。
呑み込みのテスト
これまで歯科健診で虫歯や歯周病などのチェックを受けたことがあると思います。最近、高齢者の歯科健診では、さらに呑み込みのテストをするようになっています。
呑み込みとは専門的には「嚥下」といいます。そして、テストの名前は「反復だ液嚥下テスト」です。略してRSSTテストとも呼ばれます。のど仏の上に指を置いて、30秒間にできるだけ何回もごっくんと唾液を飲み込むことを繰り返してもらい、のど仏の上下動で飲み込みを確認します。若い方で6、7回程度できます。
このテストの結果が3回未満の場合は、飲み込む動作がうまくできない嚥下障害と判断されます。日常生活では、食べ物をうまく飲み込めず食事が取りづらくなっている恐れがあります。
通常、飲み込みはのどの奥にものが達すると反射的に無意識に行う同左です。そして、飲み込みはのど周囲の筋肉が連動して動いて達成されます。全身的にも年齢とともに足腰が弱り動作がゆっくりになるのです。
ただし、テストの結果が良くなかったからと落ち込むことはありません。テストには予習と復習がつきものです。意識的に飲み込みの運動をすることにより、のどの周囲の筋肉を鍛えることができます。飲み込みは無意識な動作ですが、これを意識的にうんどうとして行うのです。
具体的には、自分でのど仏の上に指を2本のせて、口の中に唾液をためる。そして、ごっくんとだ液を飲み込んだときに、のど仏を上の方で少しとめるのです。ビールの宣伝でよく耳にする「のどごし」とは、飲み込みをしているときの途中の状態を意識したものです。のどごしを意識することは飲み込みを鍛える第一歩になります。