誤嚥性肺炎
肺炎とは肺の炎症性疾患の総称で、一般的には急性の感染症として理解されています。多くは発熱、咳、呼吸困難、胸痛などの症状がありますが、高齢者は症状が出てもわずかであったり、全くでないこともあるので注意が必要です。食欲減退、不活発、会話の欠如などの時にも肺炎が潜んでいる場合があります。独居老人など、症状を訴えることが困難な環境では特に注意が必要です。
治療法は抗菌薬の投与が有効ですが、経口摂取が困難な状態では、脱水や低栄養状態、呼吸困難による低酸素状態など重症化することもあります。その場合は入院下で、静脈栄養、経腸栄養による栄養状態の改善、輸液による電解質の補正や酸素投与、状態によって人工呼吸が必要です。
肺炎の死亡率は高齢者が特に高く、75歳を過ぎると罹患率、死亡率共に急上昇し、85歳以上の男性で死因第2位、90歳以上の男性で死因第1位となります。これには加齢に伴う体の抵抗力の低下もありますが、加齢変化に伴う口腔環境の変化も深くかかわっていると思われます。
口腔内には常に300~500種類もの細菌がいます。しかしこれらの細菌は通常だ液中ににふくまれる殺菌、抗菌作用を持つ物質やだ液自体の汚れを洗い流す作用(自浄作用)により胃へと洗い流され、数が制限されています。
高齢者は、だ液分泌量が加齢変化に伴い減少していきます。加えて、咽頭における反射も低下するため、食物やだ液が誤って期間に流れ込む、誤嚥が生じやすくなります。また、脳卒中などで嚥下障害が起きると、誤嚥が顕著になります。
つまり、加齢に伴うだ液分泌量の低下は口腔内の病原性細菌の増殖をまねき、病原細菌を含んで繰り返される誤嚥は肺の細菌処理能力を超え、肺炎を引き起こすのです。
よって、口腔内の状態をできる限り清潔に保ち、細菌数を抑えることが高齢者の肺炎予防に重要です。口腔清掃は歯ブラシを使った機械的清掃が原則で、洗口だけでは不十分です。ハブラシが届かない部分にはデンタルフロス(糸ようじ)や歯間ブラシなどの補助清掃用具を使用できればなおよいと思われます。また、専門的な口腔ケアを行うことは肺炎の予防だけでなく、入院患者の早期離床や糖尿の改善といった効果をもたらすことも報告されています。
介護と口腔ケア
要介護者の状態に大きく左右されますが、今回は御自身で口腔ケアを行えない方に対する口腔ケアの必要性、重要性に咲いてお話いたします。
多くの方が大小さまざまな入れ歯を装着されておられます。介護者自身が専門教育を受けておられたか、入れ歯を使用、もしくはその経験がおありなら入れ歯の取り扱い、特徴、問題点をよくご存じでしょうが、若年の近親者が介護こする場合ではどのようにすればよいのか分からなくて当然です。また、歯が丈夫で入れ歯に頼ってやられない要介護者もいらっしゃるでしょう。
口腔内を清潔に保つことは要介護者が爽快感を得られるだけでなく、口腔内の食物残渣を呼吸と共に肺に吸い込み、肺炎を発症させてしまうことを予防するとともに口腔内からの細菌感染を防ぐという重要な役割を果します。
そのため入れ歯を使用されておられる場合には食後必ず入れ歯をはずしていただき、全体を義歯用ブラシ等で丁寧に汚れを落とし、口腔内に自身の歯があれば歯ブラシで十分にブラッシングをすることが必要です。その後、すぐに入れ歯を装着しない場合には、適当な容器に清潔な水を入れ歯が十分に浸るまで注ぎ、容器中で保存します。
入れ歯は乾燥状態が長く続くと微妙ながら変形する可能性があります。使用者の歯ぐきの形にフィットしていない入れ歯は咀嚼時のみならず装着するだけで痛みの原因になります。このようなときには歯科医師にご相談いただき、多くの場合、入れ歯の調整を行うことで使用可能となります。咀嚼をして食物を摂取することは脳をはじめ全身の機能の発達や維持と密接にかかわっていると謂われていますので要介護者の状態改善に寄与できると考えます。
部分入れ歯の場合には装着、脱離方法が分からない場合もありますが、このような場合にも歯科医師から適切な方法の指導を受けることが可能です。その他、要介護者の状態に沿った口腔の清掃方法などについてもご相談ください。