Keyes（カイス）の三つの輪
むし歯（う蝕）がどのような要因によって発生するのかを分かりやすくした模式図に、Keyes（カイス）という人が提唱した三つの輪があります。歯、細菌（う蝕原因菌）、砂糖の輪が重なったときに、発生することを説明しています。しかし、三つの要素と言っても実はそれほど単純ではありません。
歯は個人で表面の形態や性状、耐酸性が異なります。また、細菌の種類と増殖の程度により、砂糖もどれだけの頻度でどれほどの量を摂取するかによって、う蝕が発生するかどうかが左右されます。さらに、この三つの輪の外側にも別の要素があると考えられます。一つは時間で、例えば三つの輪がごく短時間重なっても、う蝕が発生することはなく、重なる頻度や持続する時間が問題となります。だ液も重要で、分泌量や性状はう蝕の発生に影響します。関わる因子はたくさんありますが、カイスの三つの輪はう蝕を理解する出発点として、シンプルで わかりやすいと言えます。
熱心に歯を磨かないのに、小さいときからむし歯が１本もない人もいますが、最も考えられるのはう蝕原因菌（ミュータンス菌）が口の中にいない場合です。ミュータンス菌は乳幼児期に日常生活のなかで主に親からうつるといわれていますが、親にむし歯が少なくミュータンス菌が少なければ、定着しないこともあります。その場合には三つの輪が重ならず、う蝕は発生しません。
ですが、う蝕と歯周病はその原因となる細菌も、病気の成り立ちも全く違うので、１本もむし歯がなくても歯周病は発生しますし、実際はそのような患者さんをたくさんお見掛けします。口腔衛生状態を良好に保つことが大切なことは、いうまでもありません。
歯磨き剤
歯磨き剤は基本成分と薬用成分といわれるものによってできています。基本成分には歯の表面の汚れや着色を落とす研磨剤、泡立ちをよくする発泡剤、味や香りをつける香味剤、安定したペースト状にすめための湿潤剤などがあります。基本成分だけでも歯磨き剤として販売が可能です。このようなものは化粧品に属します。
薬用成分の中にはむし歯になりにくくするフッ化物、歯肉の腫れを抑える抗炎症剤、細菌を減らす殺菌剤などがあります。薬用成分を含む歯磨き剤は医薬部外品に属し、現在販売されている歯磨き剤のほとんどがそうです。
基本成分の中では、研磨剤が重要です。研磨剤の使い過ぎは歯の表面を傷める可能性があるため、長い時間歯磨きをされる方は研磨剤が少ないものでも十分です。香味剤も意外と重要で小児や強い味や刺激が苦手な方はあまり強い香味剤が入ってないものを選ぶようにしましょう。
薬用成分の中ではフッ化物の効果は確実といわれており、むし歯予防のためにはフッ化物を含有する歯磨き剤を使うことが必須です。抗炎症剤や殺菌剤を含有していても歯肉の炎症をなくしたり、口腔内の細菌を劇的に減らすほどの薬効はありません。歯磨きで歯垢を物理的に除去することが最も重要です。
確かにドラッグストアの店頭にはたくさんの種類の歯磨き剤が並んでいて、選ぶのも迷ってしまいますね。自分に合った歯磨き剤を選んで正しいブラッシング方法を身につけることは、健康な歯を守るための第一歩です。一度かかりつけの歯科医院で相談されてみてはいかがでしょうか。
